Going my way

いいなと思ったことをメモしていきます。

部活で学んだ大切なこと --「風が強く吹いている」を読んで--


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「風が強く吹いている」 三浦しをん

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これは、駅伝を通じて、仲間とは何か、走ることとは何かを問う青春小説である。

天才ランナーである蔵原走(かける)は、独りだった。

高校で監督を殴る事件を起こして以来、部活動自体を避けていた。徹底した選手管理とスパルタ練習で有名だった監督と、走はそりが合わなかった。

監督を殴って部活を辞めてからも、走は走り続けた。走にとって走ることはその名と同じくらい自然なことだったし、習慣であった。

楽しいから、とか走ることが生き甲斐という訳ではない。当たり前のことだったのだ。

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人間はあらゆることに慣れる生き物であるという。

アウシュビッツに収容された体験を記した「夜と霧」という本があるが、

そこで就寝するときは、人が寝返りも打つスペースもないくらい狭い空間に、ぎゅうぎゅう詰めにされていた。

それでもそこにいた人は、2~3日もすればそのスペースで器用に眠るようになったという。

人間は当たり前のことに慣れることができるのだ。

この本の主人公が、毎日30㎞以上走ることが習慣になったように。

 

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清瀬と出会い、走は望まぬ道を歩むことになる。

竹青荘という大学の寮の住民と箱根駅伝を目指すことになったのだ。

竹青荘の住人は駅伝の素人である。箱根駅伝に出られるなど微塵も思ってはいなかった。ただ一人、清瀬を除いては。

清瀬は竹青荘の住民一人一人にあったメニューを取り入れ、モチベーションを管理し、

段階を踏んで箱根に向かって努力できるように仕向けた。

竹青荘の住民を最初は見下すような態度で見ていた走だったが、徐々に走の中に変化が生まれた。

それは高校時代の記録だけを求められた部活では決して得られないものだった。

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僕はバスケットボールに育てられた。

小学校3年のときスラムダンクに憧れて始めた。

このスポーツに出会わなければ、今の僕はありえない。

辛い挫折も、努力が報われたときの充実感も、

うまくなったときの優越感も、チームの連帯感も、そして仲間の大切さも、

それを失ったときの寂しさも、全てバスケットが教えてくれた。

中学から「バスケットボール部」でバスケをした。

それまでは家の前のリングに向かってただシュートを打つだけだった。

そこには空とリングしかなかった。

でも、部活にはライバルがいて、仲間がいた。

接戦を制したときは一緒に泣いた。

どれも独りでは得がたいものだった。

 

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竹青荘の住民は、箱根駅伝の切符を勝ち取った。

復路9区を駆ける前に、清瀬と走は会話した。

走は心の中で願った。自分がほしい言葉を言ってくれることを。

 

俺を信じると言ってくれ、蔵原走は誰より速いランナーだと、藤岡(最強のライバル)に負けるはずがないと、言ってくれ。

 

清瀬が発した次の言葉は、澄んで深い湖のように、走の心のなかを静かに潤した。

 

「きみに対する思いを、『信じる』なんて言葉では言い表せない。

信じる、信じないじゃない。ただ、きみなんだ。走、俺にとっての最高のランナーはきみしかいない」

 

走の胸は歓喜に満ちた。この人は俺に、かけがえのないものをくれた。

きらきらと永遠に輝く、とても大切なものをいま、俺にくれたんだ。

 

走は箱根の舞台で、本当に大切なものを伝えてもらうことができた。

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これは、駅伝を通じて、仲間とは何か、走ることとは何かを問う青春小説である。

物語の中で、竹青荘のメンバーは成長し、共に喜びを分かち合い、時にぶつかりあって喧嘩し、たすきをつなぐ。

 

この小説を読んで、これまで10年以上過ごした部活動を思い出した。

部活は僕にかけがえのないものをくれた。

僕が部活に与えてもらったものを言葉に表すのはすごく難しい。

それは体験しないとわからないものだから。

でもこの小説には、部活の経験を凝縮した「かけがえのないもの」を追体験するための要素がたくさん詰まっているように思う。

大人になった今だからこそ、この本を読んで部活に熱くなったあの頃を思い出したい。